※本ページの情報は漢方の古典文献に基づく学術的な解説であり、特定の症状・疾病に対する効能・効果を保証するものではありません。医療上の診断・治療の代わりとなるものではありません。漢方薬の使用にあたっては、医師・薬剤師にご相談ください。
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漢方処方事典(50 処方)


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安中散 あんちゅうさん
理気剤
出典 和剤局方(宋代)
効能・適応 胃痛、胸やけ、食欲不振、神経性胃炎
体質(証) 虚証
方意 「中を安んずる」の名の通り、脾胃の冷えと気滞による胃痛・胸やけを温めて鎮める処方。胃寒による慢性的な胃痛のほか、神経性胃炎にも頻用される。
組成解説 桂皮が温中散寒し、延胡索が活血止痛して胃痛を鎮める。良姜が温胃止嘔し、茴香・縮砂が理気散寒する。牡蛎が制酸・安神し、甘草が調和する。
温経湯 うんけいとう
補血駆瘀血剤
出典 金匱要略
効能・適応 手のほてり、月経不順、不妊、唇の乾燥
体質(証) 虚証
方意 金匱要略に「婦人、年五十所、少腹裏急…手掌煩熱、唇口乾燥する者」に用いると記される。衝任(子宮の経絡)の虚寒と瘀血が共存する状態を、温経散寒・養血祛瘀で治す。不妊症に対する漢方治療の代表方。
組成解説 呉茱萸・桂皮が温経散寒し、当帰・芍薬・川芎が養血活血する。牡丹皮が清熱涼血して瘀血を除き、麦門冬・阿膠が滋陰潤燥する。人参・甘草・半夏・生姜が脾胃を和す。温と清、補と瀉を巧みに配合した名方。
温清飲 うんせいいん
清熱補血剤
出典 万病回春(明代・龔廷賢)
効能・適応 皮膚炎、月経不順、更年期障害
体質(証) 中間証
方意 四物湯(温)と黄連解毒湯(清)の合方。血虚と血熱が共存する状態を「温めつつ清す」二面的アプローチで治す。血を補い潤しながら熱毒を除く。名前に「温清」を冠する所以。
組成解説 当帰・芍薬・川芎・地黄の四物湯が補血活血し、黄連・黄芩・黄柏・山梔子の黄連解毒湯が清熱瀉火する。補と瀉のバランスで虚実挟雑を同時に治す。
黄連解毒湯 おうれんげどくとう
清熱剤
出典 肘後備急方(葛洪)、外台秘要
効能・適応 のぼせ、イライラ、不眠、皮膚炎、口内炎
体質(証) 実証
方意 三焦(上焦・中焦・下焦)全体の実熱を一掃する瀉火解毒の代表方。顔が赤く、イライラし、炎症が全身に及ぶ状態を冷まして毒を解く。苦寒薬のみで構成される峻烈な処方。
組成解説 黄連が心火・中焦の熱を清し、黄芩が上焦・肺の熱を清し、黄柏が下焦・腎の湿熱を清す。山梔子が三焦の火邪を小便から排出し、全体で三焦の実熱を瀉火する。
構成生薬
乙字湯 おつじとう
瀉下剤
出典 原南陽の経験方(日本漢方)
効能・適応 痔核、痔出血、切れ痔、脱肛
体質(証) 中間証
方意 江戸期の漢方医・原南陽が創製した日本独自の痔疾専門方。大腸の鬱熱を清し、穏やかに通じをつけ、出血を止め、肛門の脱垂を持ち上げる四つの作用を一方に備える。
組成解説 柴胡・升麻が清陽を昇提し脱肛を引き上げる。黄芩が大腸の熱を清し、大黄が穏やかに瀉下する。当帰が血を養い痔の修復を助け、甘草が諸薬を調和する。
葛根湯 かっこんとう
解表剤
出典 傷寒論
効能・適応 風邪の初期、肩こり、頭痛、筋肉痛
体質(証) 実証
方意 太陽病で項背がこわばり、汗の出ない状態を整える。体表の邪を発汗により追い出し、同時に筋肉の緊張を緩める処方。傷寒論では「太陽病、項背強ばること几几、汗無く悪風する者は葛根湯之を主る」と記される。
組成解説 君薬の葛根が項背の筋肉をゆるめ津液を生じ、臣薬の麻黄・桂皮が発汗解表する。芍薬が筋の攣急を和らげ、甘草・大棗・生姜が脾胃を守りつつ薬力を調和する。
葛根湯加川芎辛夷 かっこんとうかせんきゅうしんい
解表剤
出典 本朝経験方
効能・適応 鼻づまり、蓄膿症、慢性鼻炎
体質(証) 実証
方意 葛根湯の発表力に川芎の活血行気と辛夷の通鼻竅作用を加え、鼻閉・鼻淵を専門的に治す加方。頭部の鬱滞を散じ、鼻の通りを回復させる。
組成解説 葛根湯の基本構成で表邪を除きつつ、川芎が血行を促し頭部の瘀滞を散じ、辛夷が鼻竅を開通させる。
加味逍遙散 かみしょうようさん
理気剤
出典 和剤局方の逍遙散に丹溪心法で牡丹皮・山梔子を加味
効能・適応 更年期障害、月経不順、イライラ、のぼせ
体質(証) 虚〜中間証
方意 肝鬱血虚脾弱に鬱熱が加わった状態を整える。「逍遙」とは「のびのびと自在に」の意で、気の鬱滞を疏通して心身を開放する。牡丹皮・山梔子の加味で清熱力を強化。日本の婦人科三大処方(当帰芍薬散・加味逍遙散・桂枝茯苓丸)の一つ。
組成解説 柴胡が疏肝解鬱し、当帰・芍薬が養血柔肝する。白朮・茯苓・甘草・生姜が健脾し、薄荷が疏散鬱熱を助ける。牡丹皮・山梔子が清熱涼血し、肝火とのぼせを冷ます。
帰脾湯 きひとう
補気補血剤
出典 済生方(宋代・厳用和)、校注婦人良方で加味
効能・適応 不眠、貧血、精神不安、物忘れ
体質(証) 虚証
方意 「脾に帰す」の名は、心血不足と脾気虚を同時に治し、思慮過度で損なわれた心脾を回復させることに由来する。心脾両虚による不眠・健忘・動悸・食欲不振の代表方。
組成解説 人参・黄耆・白朮・甘草・大棗・生姜が脾気を補い、当帰が心血を養う。酸棗仁・竜眼肉・遠志が養心安神し、木香が理気して補薬の停滞を防ぐ。茯苓が健脾寧心する。
荊芥連翹湯 けいがいれんぎょうとう
清熱剤
出典 一貫堂医学(森道伯の経験方)
効能・適応 蓄膿症、にきび、慢性鼻炎、扁桃炎
体質(証) 中間〜実証
方意 解毒体質(血熱が鬱滞しやすい体質)の代表方。頭頸部の慢性的な化膿性炎症を整える。温清飲を基礎に、解表・排膿・通竅の生薬を多数加え、上焦の鬱熱を疏散する。
組成解説 荊芥・防風・薄荷が風邪を疏散し、連翹・山梔子・黄芩・黄連・黄柏が清熱解毒する。当帰・芍薬・川芎・地黄が血を養い、桔梗・枳殻が気を宣通し、白芷が鼻竅を通じさせる。
桂枝湯 けいしとう
解表剤
出典 傷寒論
効能・適応 風邪の初期(虚弱者向け)、頭痛、自汗
体質(証) 虚証
方意 傷寒論の第一方。営衛の不和(体表の防御力と栄養の巡りの乱れ)を調和し、穏やかに発汗して風邪を除く。「群方の祖」と称され、多くの処方の基本となる。
組成解説 君薬の桂皮が衛気を温め解肌し、臣薬の芍薬が営陰を収斂して営衛を調和。甘草が中気を補い両薬を調和し、生姜が発散を助け、大棗が脾胃を養う。
桂枝茯苓丸 けいしぶくりょうがん
駆瘀血剤
出典 金匱要略
効能・適応 月経痛、子宮筋腫、シミ、のぼせ、下腹部痛
体質(証) 実証
方意 金匱要略に「婦人素(もと)癥病有り」の際に用いると記される。瘀血(血の滞り)を穏やかに活血化瘀する代表方。日本の婦人科三大処方の一つで、下腹部の瘀血による諸症状を広く治す。
組成解説 桂皮が通陽して血の巡りを助け、桃仁・牡丹皮が活血化瘀する。芍薬が養血和営して瘀血を散じ、茯苓が利水滲湿して水血同治する。五味が均等量という特徴的な構成。
香蘇散 こうそさん
理気剤
出典 和剤局方(宋代)
効能・適応 風邪の初期(胃腸虚弱者向け)、気鬱、食欲不振
体質(証) 虚証
方意 胃腸の弱い人の風邪に適する穏やかな解表剤。気鬱を散じ脾胃を和す作用を兼ねるため、ストレスが加わった風邪初期や、神経質な体質の人の感冒に用いられる。
組成解説 香附子が理気解鬱して気分を晴らし、蘇葉が解表散寒して風邪を除く。陳皮が理気和胃し、甘草が調和、生姜が温胃散寒する。
五積散 ごしゃくさん
温裏理気剤
出典 和剤局方(宋代)
効能・適応 腰痛、冷え、胃腸障害、月経痛
体質(証) 虚〜中間証
方意 寒積・食積・気積・血積・痰積の「五つの積滞」を同時に散じる大方。和剤局方に記される温裏と解表を兼ねた処方で、冷えを基調とした複合的な不調に用いる。
組成解説 蒼朮・厚朴・陳皮が燥湿理気し、当帰・芍薬・川芎が養血活血する。桂皮・乾姜・麻黄が温経散寒し、半夏・茯苓・桔梗が化痰止咳する。白芷が散寒止痛し、大棗・甘草・枳殻が調和する。
牛車腎気丸 ごしゃじんきがん
補腎剤
出典 済生方(宋代・厳用和)
効能・適応 腰痛、しびれ、排尿障害、むくみ、下肢の冷え
体質(証) 虚証
方意 八味地黄丸に牛膝・車前子を加えた処方。腎虚に加え、下肢のむくみ・しびれ・排尿障害が顕著な場合に用いる。牛膝が腰膝を強め瘀血を除き、車前子が利水通淋する。
組成解説 八味地黄丸の基本構成(地黄・山茱萸・山薬の三補、沢瀉・茯苓・牡丹皮の三瀉、桂皮・附子の温陽)に、牛膝が補肝腎・強筋骨して下半身の血行に働きかけ、車前子が利水清熱して排尿を助けるとされる。
五苓散 ごれいさん
利水剤
出典 傷寒論
効能・適応 むくみ、頭痛、二日酔い、下痢、口渇
体質(証) 中間証
方意 体内の水分代謝の失調を調節する利水の代表方。傷寒論に「渇して水を飲まんと欲し、水入れば即ち吐する者」に用いると記される。余分な水を除きつつ、必要な水は保持する「利水」の概念を体現した処方。
組成解説 君薬の沢瀉が利水滲湿し腎の水を排出する。猪苓・茯苓が利水を助け、白朮が健脾して水湿の運化を促す。桂皮が温陽化気して膀胱の気化を助け、水の巡りを回復させる。
柴胡加竜骨牡蛎湯 さいこかりゅうこつぼれいとう
和解剤
出典 傷寒論
効能・適応 不眠、動悸、精神不安、てんかん
体質(証) 中間〜実証
方意 傷寒論に「胸満煩驚、小便不利、譫語する者」に用いると記される。少陽の枢機不利に痰熱内擾が加わり、精神不安・動悸・不眠が生じた状態を整える。
組成解説 柴胡・黄芩が少陽を和解し、竜骨・牡蛎が重鎮安神して驚悸を定める。桂皮が気を巡らせ通陽し、大黄が内熱を瀉し、茯苓が利水寧心する。人参・大棗・生姜が正気を補う。
柴胡桂枝湯 さいこけいしとう
和解剤
出典 傷寒論
効能・適応 風邪の後期、胃腸炎、腹痛
体質(証) 中間証
方意 傷寒論に「傷寒六七日、発熱し微悪寒し、支節煩疼する者」に用いると記される。桂枝湯と小柴胡湯を合方した処方で、太陽と少陽にまたがる病態を同時に治す。
組成解説 柴胡・黄芩の少陽和解と、桂皮・芍薬の営衛調和を兼ね備える。半夏・生姜が胃を和し、人参・甘草・大棗が正気を補い、緩やかに表裏双解する。
柴苓湯 さいれいとう
和解利水剤
出典 世医得効方(元代)
効能・適応 胃腸炎、むくみ、下痢、腎炎
体質(証) 中間証
方意 小柴胡湯と五苓散の合方。少陽の邪を和解しつつ、水湿の停滞を利水で除く。発熱と水様性下痢が同時にある急性胃腸炎に頻用される。
組成解説 柴胡・黄芩・半夏の小柴胡湯成分が少陽を和解し、沢瀉・猪苓・茯苓・白朮・桂皮の五苓散成分が水湿を除く。人参・大棗・甘草・生姜が脾胃を養う。
四逆散 しぎゃくさん
理気剤
出典 傷寒論
効能・適応 胃痛、腹痛、ストレスによる消化器不調
体質(証) 中間証
方意 「四逆」は手足の冷えの意。傷寒論では陽気が鬱滞して四肢に達しないための冷え(熱厥)を整える。肝気鬱結を疏通し、脾胃への横逆を和らげる疏肝理脾の基本方。
組成解説 柴胡が疏肝解鬱し、芍薬が養血柔肝して肝気を和らげる。枳実が破気導滞して胃腸の気を降ろし、甘草が緩急和中する。わずか四味で肝脾不和を整える簡潔な処方。
構成生薬
四物湯 しもつとう
補血剤
出典 和剤局方(宋代)、原型は唐代の仙授理傷続断秘方
効能・適応 貧血、冷え症、月経不順、肌荒れ
体質(証) 虚証
方意 補血の基本方にして「婦人の聖薬」と称される。血虚(血の不足)によるめまい・顔色蒼白・月経不調・肌の乾燥を、血を補い巡らせることで治す。多くの補血方の母体。
組成解説 君薬の地黄が滋陰補血し、臣薬の当帰が補血活血する。川芎が行気活血して地黄・当帰の補血力を巡らせ、芍薬が養血斂陰する。補中に動(巡らせる)あり、補血方の理想型。
構成生薬
芍薬甘草湯 しゃくやくかんぞうとう
止痙剤
出典 傷寒論
効能・適応 こむら返り、筋肉の痙攣、腹痛、胃痙攣
体質(証) 証を問わない
方意 傷寒論中最も簡潔な処方の一つ。わずか二味で筋肉の急激な痙攣・疼痛を速やかに緩解する。「去杖湯(杖を捨てる湯)」の別名は、脚の痙攣が治り杖が不要になることに由来。酸甘化陰(酸味と甘味で陰液を生ず)の理論に基づく。
組成解説 芍薬が酸収斂陰し筋脈の攣急を和らげ、甘草が甘温緩急して痛みを止める。二味が協力して「酸甘化陰」し、筋肉を潤して痙攣を速やかに解く。
構成生薬
小建中湯 しょうけんちゅうとう
補気剤
出典 傷寒論・金匱要略
効能・適応 虚弱体質、疲労倦怠、腹痛、小児の虚弱
体質(証) 虚証
方意 桂枝湯に芍薬を倍加し膠飴を加えた処方。「中(脾胃)を建てる」の名の通り、脾胃虚弱を甘温で補い、虚労による腹痛・動悸・自汗に用いるとされる。金匱要略「虚労篇」の代表方。小児の虚弱体質にも広く用いられてきた処方。
組成解説 膠飴が甘温で脾胃を補い急迫を緩める君薬。芍薬(倍量)が腹中の攣急を和らげ、桂皮が気を通じ陽を温める。甘草・大棗が補脾和中し、生姜が温胃する。
小柴胡湯 しょうさいことう
和解剤
出典 傷寒論
効能・適応 食欲不振、微熱、全身倦怠感、口苦
体質(証) 中間証
方意 少陽病の主方。邪が半表半裏に入り、寒熱往来・胸脇苦満・食欲不振が現れた状態を和解する。傷寒論に「往来寒熱、胸脇苦満、嘿嘿として食を欲せず」と記される。
組成解説 君薬の柴胡が少陽の邪を疏散し、臣薬の黄芩が少陽の熱を清す。半夏・生姜が和胃止嘔し、人参・大棗・甘草が正気を扶けて邪に抗する力を補う。
小青竜湯 しょうせいりゅうとう
解表剤
出典 傷寒論
効能・適応 花粉症、鼻水、水様性の痰、喘息
体質(証) 中間証
方意 表に風寒、裏に水飲(体内の余分な水分)がある状態を同時に治す。外寒を散じ、内飲を温化する「解表蠲飲」の代表方。水っぽい鼻水・痰・くしゃみが目標。
組成解説 麻黄・桂皮で解表散寒、乾姜・細辛・半夏で温肺化飲し水飲を除く。五味子が肺気を収斂し咳を止め、芍薬が営陰を養い、甘草が諸薬を調和する。
真武湯 しんぶとう
温裏剤
出典 傷寒論
効能・適応 冷え、下痢、めまい、低血圧、全身倦怠
体質(証) 虚証
方意 腎陽虚衰で水気が氾濫した状態を整える。傷寒論に「腹痛、小便不利、四肢沈重疼痛」に用いると記される。附子の大きな温陽力で腎の火を焚きつけ、水を制する。冷えが強い高齢者のめまい・浮腫に重用。
組成解説 君薬の附子が温腎壮陽して水を制する。白朮・茯苓が健脾利水し、芍薬が斂陰和営して附子の燥性を緩和する。生姜が温胃散寒して附子を助ける。
十全大補湯 じゅうぜんたいほとう
補気補血剤
出典 和剤局方(宋代)
効能・適応 病後の体力低下、貧血、疲労、術後回復
体質(証) 虚証
方意 四君子湯(補気)と四物湯(補血)を合方し、黄耆・桂皮を加えた気血双補の大方。「十全(すべてを備える)に大いに補う」の名の通り、気血両虚の根本的回復を図る。がん治療の支持療法としても研究が進む。
組成解説 人参・黄耆・白朮・茯苓・甘草が気を大補し、当帰・芍薬・川芎・地黄が血を養う。桂皮が温経通脈し、全十味が協力して気血を根本から回復させる。
十味敗毒湯 じゅうみはいどくとう
清熱剤
出典 華岡青洲の経験方(外科正宗の荊防敗毒散を改良)
効能・適応 湿疹、じんましん、水虫、にきび、化膿性皮膚疾患
体質(証) 中間証
方意 日本漢方の大家・華岡青洲が中国の荊防敗毒散を改良した和漢の名方。皮膚の化膿性疾患を「敗毒(毒を追い出す)」の考え方で治す。発表と排膿を同時に行う。
組成解説 柴胡・荊芥・防風・独活が風湿の邪を疏散し、桜皮(日本独自の生薬)・桔梗が排膿を促す。川芎が血を巡らせ、茯苓が利水し、甘草・生姜が脾胃を調える。
清上防風湯 せいじょうぼうふうとう
清熱剤
出典 万病回春(明代・龔廷賢)
効能・適応 にきび、顔面の湿疹・赤み
体質(証) 実証
方意 「清上」は上焦(頭面部)の熱を清すという意味。顔面に集中した赤いにきびや湿疹を、風邪を散じ熱毒を清して治す。青年期の実証タイプのにきびに適する。
組成解説 防風・荊芥・薄荷が頭面の風邪を散じ、黄芩・黄連・山梔子が清熱瀉火する。連翹が解毒消腫し、川芎が血を巡らせ、白芷が頭面の止痛・排膿を助ける。桔梗・枳殻が気を宣通し、甘草が調和する。
大建中湯 だいけんちゅうとう
温裏剤
出典 金匱要略
効能・適応 腹部の冷え、腹痛、腹部膨満、腸閉塞予防
体質(証) 虚証
方意 金匱要略に「心胸中の大寒痛、嘔して食べる能わず、腹中寒え、上衝して皮、起こり出で、上下に見え有り」に用いると記される。脾胃の大虚大寒を温補する峻剤。術後の腸管運動回復にエビデンスがある。
組成解説 山椒が温中止痛の主力で大寒を散じ、乾姜が温中散寒を強力に助ける。人参が大補脾気して虚を治し、膠飴が甘温で脾を養い急迫を緩める。四味で裏寒を大いに温補する。
構成生薬
大柴胡湯 だいさいことう
和解剤
出典 傷寒論・金匱要略
効能・適応 胆石症、高血圧、肥満、便秘、肝胆疾患
体質(証) 実証
方意 少陽と陽明の合病を整える。少陽の邪を和解しながら、陽明の裏実(便秘・腹満)を瀉下する。小柴胡湯から人参・甘草を去り、枳実・大黄・芍薬を加えた攻補兼施の処方。
組成解説 柴胡・黄芩が少陽を和解し、大黄・枳実が陽明の実を瀉下する。芍薬が腹痛を緩和し肝気を柔げ、半夏・生姜が和胃し、大棗が脾胃を養う。
釣藤散 ちょうとうさん
平肝剤
出典 普済本事方(宋代・許叔微)
効能・適応 慢性頭痛、高血圧、めまい、朝方の頭痛
体質(証) 中間証
方意 肝陽上亢(肝の陽気が上に昇りすぎる状態)による頭痛・めまい・高血圧を整える。特に起床時に悪化する頭痛に特徴的に用いられる。平肝潜陽と化痰清熱を兼ねる。
組成解説 釣藤鈎が平肝熄風し、菊花が清肝明目して頭痛を和らげる。陳皮・半夏が化痰し、防風が散風する。石膏が清熱し、茯苓が利水する。人参・甘草・生姜が脾胃を補い、麦門冬が養陰して肝陰を潤す。
猪苓湯 ちょれいとう
利水剤
出典 傷寒論・金匱要略
効能・適応 排尿困難、膀胱炎、血尿、尿路感染
体質(証) 中間証
方意 水熱互結(水と熱が下焦で絡まった状態)を整える。利水して熱を清し、陰を養って排尿の不調に用いるとされる。傷寒論に「脈浮、発熱、渇して水を飲まんと欲し、小便不利する者」に用いると記される。
組成解説 猪苓・茯苓・沢瀉が利水滲湿し、阿膠が滋陰養血して腎陰を潤し出血を止める。滑石が清熱利尿し、利水と養陰を兼ねた処方。五苓散との違いは温薬(桂皮)がなく、清潤薬(阿膠・滑石)がある点。
桃核承気湯 とうかくじょうきとう
駆瘀血剤
出典 傷寒論
効能・適応 月経痛、便秘、のぼせ、下腹部の圧痛
体質(証) 実証
方意 太陽蓄血証(邪が血分に入り下焦に蓄積した状態)を整える。傷寒論に「其の人狂の如く」「少腹急結する者」に用いると記される。瘀血を破り瀉下する峻剤で、桂枝茯苓丸より力が強い。
組成解説 桃仁が破血逐瘀し、大黄が蕩滌瘀熱して瀉下する。芒硝が軟堅瀉下を助け、桂皮が通陽して血を動かし、甘草が調和して峻烈さを和らげる。
当帰芍薬散 とうきしゃくやくさん
補血利水剤
出典 金匱要略
効能・適応 月経不順、冷え症、むくみ、妊娠中の諸症状
体質(証) 虚証
方意 金匱要略に「婦人腹中諸疾痛」「妊娠腹痛」に用いると記される。血虚と水滞が共存する状態を整える。血を養いつつ余分な水を除く、日本で最も処方頻度の高い婦人科漢方。
組成解説 当帰・芍薬・川芎が養血活血して肝血を補い、白朮・茯苓・沢瀉が健脾利水して水湿を除く。血と水の代謝に同時に働きかけるとされる。
人参湯 にんじんとう
補気剤
出典 傷寒論(理中丸として)
効能・適応 胃腸虚弱、冷え、下痢、嘔吐
体質(証) 虚証
方意 傷寒論では「理中丸」として記載。「中(脾胃)を理(おさ)める」の意で、脾胃の陽気が虚して冷え、水穀の運化ができなくなった状態を温補する。太陰病の基本方。
組成解説 人参が大補元気し脾を益する。白朮が健脾燥湿し、乾姜が温中散寒して脾陽を回復させる。甘草が補気し諸薬を調和する。わずか四味で脾胃虚寒の根本を整える。
構成生薬
八味地黄丸 はちみじおうがん
補腎剤
出典 金匱要略(腎気丸として)
効能・適応 腰痛、頻尿、むくみ、老化に伴う症状
体質(証) 虚証
方意 金匱要略に記される補腎の祖方。「腎気丸」の原名が示す通り、腎気(生命力の根源)を補い温める。六味地黄丸の滋補腎陰に桂皮・附子の温陽を加え、「少火(適度な温め)で気を生ず」の考えを体現。加齢による足腰の衰え・夜間頻尿・むくみに重用。
組成解説 地黄が腎陰を滋養する君薬。山茱萸・山薬がそれぞれ肝と脾を補い腎を助ける。沢瀉・茯苓・牡丹皮が三瀉として余分な水湿と虚火を除く。桂皮・附子が命門の火を温め、腎の気化を助ける。
半夏厚朴湯 はんげこうぼくとう
理気剤
出典 金匱要略
効能・適応 不安、のどの異物感(梅核気)、つわり、抑うつ
体質(証) 虚〜中間証
方意 金匱要略に「婦人咽中炙臠(あぶり肉)有るが如き者」に用いると記される。のどに何か詰まった感じ(梅核気)を主治し、気滞と痰凝を同時に解く。現代のストレス性咽喉異常感症・不安障害に広く用いられる。
組成解説 半夏が化痰散結し、厚朴が行気降逆して気滞を除く。茯苓が化痰利水し、蘇葉が理気宣肺して鬱を散じ、生姜が温胃和中して半夏・厚朴を助ける。
半夏瀉心湯 はんげしゃしんとう
和解剤
出典 傷寒論
効能・適応 胃腸炎、口内炎、下痢と嘔吐、みぞおちの痞え
体質(証) 中間証
方意 心下痞(みぞおちのつかえ)を主治する。寒熱錯雑(胃腸に寒と熱が同居する状態)を辛開苦降法で治す。誤って瀉下し、邪が心下に結んだ痞証の代表方。
組成解説 半夏が散結消痞し嘔を止め、乾姜が脾胃を温めて寒を除く。黄芩・黄連が胃熱を清し、人参・大棗・甘草が脾胃の正気を補い、寒温並用で痞えを開く。
麦門冬湯 ばくもんどうとう
潤燥剤
出典 金匱要略
効能・適応 からぜき、気管支炎、のどの乾燥、しわがれ声
体質(証) 虚証
方意 金匱要略に「大逆上気、咽喉不利する者」に用いると記される。肺胃の陰虚(潤い不足)による乾燥性の咳・のどの不快感を滋潤して治す。慢性咳嗽、特に痰の少ない乾いた咳に重用。
組成解説 君薬の麦門冬が養陰潤肺し、臣薬の半夏が降逆止咳して麦門冬と陰陽配合する。人参・粳米・大棗・甘草が益気養胃し、肺の潤いの源である脾胃を補う。
白虎加人参湯 びゃっこかにんじんとう
清熱剤
出典 傷寒論・金匱要略
効能・適応 口渇、ほてり、熱中症、糖尿病の口渇
体質(証) 実証
方意 陽明経の裏熱(高熱・大汗・大渇・脈洪大)を清しつつ、失われた津液を補う。白虎湯に人参を加え、清熱と生津を兼ねた処方。夏場の熱中症に今も重用される。
組成解説 君薬の石膏が陽明の大熱を清し、知母が滋陰清熱を助け石膏を補佐する。粳米・甘草が胃気を保護し、人参が津液を生じて脱水を救う。
補中益気湯 ほちゅうえっきとう
補気剤
出典 脾胃論(金元・李東垣)
効能・適応 虚弱体質、食欲不振、疲労倦怠、内臓下垂
体質(証) 虚証
方意 李東垣が創製した「甘温除大熱」の代表方。脾胃の気が虚して下陥(内臓下垂・脱肛・子宮脱など)し、虚熱が出る状態を整える。「中(脾胃)を補い、気を益す」の名の通り、気虚の根本処方。
組成解説 君薬の黄耆が大補元気し固表する。人参・白朮・甘草が脾胃を補い、当帰が血を養う。陳皮が理気し補薬の膩滞を防ぎ、升麻・柴胡が清陽を升挙して下陥を整える。大棗・生姜が脾胃を助ける。
防已黄耆湯 ぼういおうぎとう
利水剤
出典 金匱要略
効能・適応 水太り、むくみ、多汗、関節痛
体質(証) 虚証
方意 表虚で水湿が停滞し、汗が多くむくみやすい「水太り」体質を整える。金匱要略に「風湿、脈浮、身重く、汗出て悪風する者」に用いると記される。気虚利水の代表方。
組成解説 黄耆が補気固表して余分な発汗を止め、防已が利水消腫して関節の水滞を除く。白朮が健脾燥湿し、大棗・甘草・生姜が脾胃を補い、水の運化を回復させる。
防風通聖散 ぼうふうつうしょうさん
清熱瀉下剤
出典 宣明論方(金元・劉完素)
効能・適応 肥満症、便秘、高血圧、メタボリックシンドローム
体質(証) 実証
方意 「聖人のように通じをつける万能方」の意。表裏・気血・三焦すべてに渡る実邪を一挙に除く大方。18味もの生薬で解表・清熱・瀉下・利水を同時に行う。現代では内臓脂肪型肥満への使用が広まっている。実証の体力充実した人にのみ適する。
組成解説 防風・荊芥・麻黄・薄荷が解表し、大黄・芒硝が瀉下し、石膏・黄芩・連翹・山梔子が清熱瀉火する。白朮・滑石が利水し、当帰・芍薬・川芎が血を巡らせ、桔梗が宣肺し、甘草・生姜が調和する。
麻黄湯 まおうとう
解表剤
出典 傷寒論
効能・適応 インフルエンザ初期、関節痛、無汗の風邪
体質(証) 実証
方意 太陽傷寒の代表方。寒邪が体表を束縛し、汗が全く出ない状態を強力な発汗で打破する。傷寒論では「太陽病、頭痛発熱、身疼腰痛、骨節疼痛、悪風、無汗而喘する者」に用いると記される。
組成解説 君薬の麻黄が強力に発汗解表し宣肺平喘する。臣薬の桂皮が温経散寒を助け、佐薬の杏仁が肺気を降ろして喘を止め、使薬の甘草が薬力を調和し麻黄の峻烈さを緩和する。
構成生薬
麻杏甘石湯 まきょうかんせきとう
清熱剤
出典 傷寒論
効能・適応 咳嗽、気管支喘息、小児喘息
体質(証) 実証
方意 肺に邪熱がこもり、喘息・咳嗽が生じた状態を整える。麻黄湯から桂皮を去り石膏を加えたもので、発汗ではなく清肺平喘を主とする。傷寒論に「汗出でて喘し、大熱無き者」に用いると記される。
組成解説 麻黄が宣肺平喘し、石膏が肺熱を清す。両者の配合が辛涼宣泄の要。杏仁が肺気を降ろして咳を止め、甘草が諸薬を調和し急迫を緩める。
構成生薬
抑肝散 よくかんさん
平肝剤
出典 保嬰撮要(明代・薛鎧)
効能・適応 神経症、不眠、イライラ、認知症のBPSD、小児の夜泣き
体質(証) 虚〜中間証
方意 「肝を抑える」の名の通り、肝気の亢進(怒り・興奮・痙攣)を鎮める。元々は小児のひきつけ(肝風)に用いる処方だったが、日本で認知症の行動・心理症状(BPSD)への有効性が報告され広く用いられるようになった。
組成解説 釣藤鈎が平肝熄風して痙攣・興奮を鎮め、柴胡が疏肝解鬱する。当帰・川芎が養血活血して肝血を補い、白朮・茯苓が健脾し、甘草が緩急和中する。
抑肝散加陳皮半夏 よくかんさんかちんぴはんげ
平肝剤
出典 本朝経験方(日本漢方による加味)
効能・適応 神経症、不眠、胃腸虚弱を伴うイライラ
体質(証) 虚証
方意 抑肝散に陳皮・半夏を加え、化痰理気力を強化した加方。胃腸が弱く痰が絡みやすい人の精神不安に適する。抑肝散より穏やかで、虚弱な高齢者に用いやすい。
組成解説 抑肝散の基本構成で肝を抑え血を養いつつ、陳皮が理気和胃し、半夏が化痰止嘔する。胃腸への負担を軽減し、長期服用しやすくなっている。
六君子湯 りっくんしとう
補気剤
出典 万病回春(明代・龔廷賢)
効能・適応 胃腸虚弱、食欲不振、嘔吐、胃もたれ
体質(証) 虚証
方意 四君子湯(人参・白朮・茯苓・甘草)に陳皮・半夏を加えた処方。脾胃の気虚に痰湿が加わった状態を、補気と化痰を兼ねて治す。日本で最も頻用される胃腸薬の一つ。機能性ディスペプシアへの有効性がエビデンスとして確認されている。
組成解説 人参・白朮・茯苓・甘草の四君子湯が脾気を大補し、半夏が化痰止嘔、陳皮が理気健脾する。大棗・生姜が和胃し、全体として脾胃を立て直す。
苓桂朮甘湯 りょうけいじゅつかんとう
利水剤
出典 傷寒論・金匱要略
効能・適応 めまい、立ちくらみ、動悸、頭重
体質(証) 虚証
方意 「痰飲」の代表的治方。脾陽虚で水飲が中焦に停滞し、上衝してめまい・動悸を起こす状態を整える。金匱要略に「心下逆満、気上胸に衝く者」に用いると記される。温陽化飲の基本方。
組成解説 茯苓が利水化飲の主薬、桂皮が温陽化気して水飲を動かし上衝を降ろす。白朮が健脾燥湿して水の源を断ち、甘草が補中和薬する。四味で温めて水を捌く。
構成生薬
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本ページの情報は漢方薬の一般的な解説であり、医療上の診断や処方を行うものではありません。漢方薬は同じ症状でも体質(証)によって適切な処方が異なります。自己判断での服用は避け、必ず漢方専門の薬剤師や医師にご相談ください。

掲載内容は傷寒論・金匱要略・和剤局方・万病回春・脾胃論等の漢方古典および厚生労働省「一般用漢方製剤承認基準」を参考にしています。

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